橋下知事に聞いてみたい!

「暫定予算」の手法には一理も無いと思います
地方行財政運営の根本ルールをぶちこわすのですか?


☆この文章は08年02月26日に脱稿したものですが、記録に残しておくのも意味なしとは言えまいとの観もある昨今なので、あえてここに掲載することにしました。

 橋下知事が編成した08年度「暫定予算」について、広範な府民からも市町村長や財政担当者からも困惑と批判、怒りの声が広がっています。
 本稿はその手法の異常さ、横暴さを厳しく指摘するためのものです。ことはこれまでの府政のもとで行われてきた、あれこれの施策や事業の善し悪しを問うものではなく、地方自治体のあり方そのものに関わる重大問題だからです。それは、地方行財政に携わる者なら誰でも等しくわきまえておくべき地方行財政運営のイロハに属するものだと言って決して過言ではありません。
 
暫定予算のイロハ

 暫定予算とはそもそもどういうものでしょうか。広辞苑には「会計年度開始までに本予算が成立しない場合、その成立までの空白期間をつなぐため一時的に実行される予算。本予算が成立すると、それに吸収される」とあります。これは国政の場合のことであり、財政法にもとづくものですが、基本的には地方自治体でも同じことです。
 具体的に見てみましょう。地方自治法第218条2項に「普通地方公共団体の長は、必要に応じて、一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を調製し、これを議会に提出することができる」とあります。
 この「必要に応じて」とはどういう場合でしょうか。地方自治法施行令第2条は「普通地方公共団体の設置があった場合に、… 予算が議会の議決を経て成立するまでの間、必要な収支につき暫定予算を調製し、これを執行する」とあります。それ以外のケースは想定されていません。
 行財政運営に携わる人なら誰でも知っている「逐条地方自治法(第4次改訂版・松本英昭著・学陽書房)」には「必要に応じて」とは「歳入歳出予算が年度開始までに成立する見込みのない場合」、「新たに地方公共団体が設置された場合」、「その他特別な必要がある場合」という三つの事例をあげ、その趣旨は「いわゆる本予算成立までの間の行政の中断を防ぐためのもの…」としています。つまり、暫定予算が調製される場合の本旨は「行政の中断を防ぐ」、つまり「行政の継続性を保障する」ところにあるのです。
 三重県松阪市のホームページでは、「暫定予算が必要となる一般的な理由」として、「議会の解散、予算審議の延長等によって年度開始前に予算議決をえることができないとき」、「災害の発生等による議会招集の遅れ等によって予算の議決に至らないとき」、「予算が否決され、再度案等に時間を要し、年度開始に間に合わないとき」、「廃置分合があり、一定期間に限った予算とせざるを得ないとき」などをあげています。
 このように法令は「暫定予算」の調製と運用について、極めて限定的な「特別の場合」であることを規定しており、その内容はほぼ執行機関と議決機関の関係に齟齬(そご)をきたしている時に限られています。今回のような首長の都合、主観、政策的見地に左右される「暫定予算」などというものは全く想定・前提していないのです。
 さて、橋下知事はその極めて限定的な「特別の場合」という根拠をどこに求めるのでしょうか。単に新知事の就任をもって「特別な場合」とは言えません。新知事の就任は、前知事の任期満了による通常の選挙にもとづくものであり、「通常の、平穏な交代」なのです。橋下知事は自らの発した「財政非常事態宣言」をもって「特別な場合」と主張しようとしているのかも知れませんが、この「宣言」は議会を始め、どの公式な機関の検討を経たものではなく、行政上確定したものではありません。もしこの「宣言」をもって口実とするなら、自作自演の強引なこじつけ・言い逃れのそしりを免れることはできません。「非常事態」の原因と責任の所在、抜本的な対策にはていねいな吟味が必要です。
 
予算調製のイロハから「暫定予算」をみると…

 以上のように今回の「暫定予算」は調製そのものに大きな問題があるのですが、予算編成の基本からも大きく逸脱したものになっています。
 自治体首長には「普通地方公共団体の長は、毎会計年度予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければならない。…(地方自治法第211条・予算の調製及び議決)」とあるように予算を組み、議会に提出し、議決を受けることが義務づけられています。その原則は「一会計年度における一切の収入及び支出は、すべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならない…(同法210条・総計予算主義の原則)」」ということです。会計年度とは毎年の4月1日から翌年3月31日までと定められており、その間の「一切の収入、支出」を「予算に編入」することは原則中の原則です。
 ところが今回の「暫定予算」では、その「一切の収入・支出」が7月までの「期間限定」となっているのですから、行財政の運営上信じられないような奇想天外なことが起こりうるのです。それは本来「通年的」に企画・立案・執行されてきた事務・事業・施策の一切の財政的裏付けを奪い、8月からはすべての事業を新たに立ち上げ、執行しなければならないという体裁をとるからです。これは明らかに法(政・省令を含む)や条例(規則・要綱を含む)にもとづく行財政の執行に多大の困難と障害をもたらすものにほかなりません。
 例えば、歳入では国(法)によって年度を単位として、大阪府に交付されるべき地方交付税や国庫支出金(負担金、交付金、補助金等)の歳入の受け入れ一切が期間限定となり、法の保障する通年的な歳入さえ、府の予算上は確定的ではなくなるのです。府内では条例で定められた府税収入でさえ期間限定となり、論理的にはその間、大阪府は府民からの府税一切を「通年」の額では徴収・督促できないことになります。
 歳出の一切も同じことです。通年で運営されている一切の施設も、働く職員の人件費も、府が責任を負って運営している施策・事業のすべて、まさに一切合切の支出が期間限定となるのです。社会通念上の一切の年間契約の期間も7月までに限定され、8月からは新たに契約を結び直さなければなりません。橋下知事が「図書館以外はいらない」と言っている公の施設はすべて、条例等の「法体系」にそって運営されているものであり、その改定に先行して「暫定予算」で縛り上げるなどというのはまさに恫喝的・暴力的な措置だと断じざるを得ません。
 法や条例によって措置され、支出されてきた市町村への支出金も期間限定となるのですから、論理的には市町村は「通年」の収入に府による担保のない年間予算を計上することになってしまいます。橋下知事は市町村にも「右へならえ」とばかりに「暫定予算を調製せよ」とでもいうのでしょうか。
 重大なことは、年間予算を調製するのは「普通地方公共団体の長」の義務であり、知事ばかりか市町村長にもその義務が課されていることです。府と市町村は上下関係ではありません。対等平等なのです。橋下知事は「暫定予算」の強行によって市町村長の職務遂行を妨害し、市町村の行財政にも介入することになってしまうのです。府内の市町村長がこぞって、このような予算の編成に批判と怒りの声をあげるのは当然すぎるほど当然のことなのです。
 知事は「市町村、関係団体や府民にもご迷惑をおかけすることになる」と殊勝にも「ご協力とご理解をお願いする」というのですが、府と市町村の関係におけるこれほどの信義則違反に、すすんで理解や協力をしめす市町村長がいるはずはありません。ことは「ご迷惑」や「ご理解、ご協力」の域をこえた、地方行財政におけるルール破りというべきものであり、地方行政に関わるものであれば到底容認できるはずがないものだからです。

なぜ「骨格予算」を調製しなかったのか — そこには重大な疑念が…

 とはいえ、知事選挙が1月末に執行され、2月末には定例議会が予定されるような場合、本格予算の調製には期間が短いため、無理が生ずることはあり得ることです。その場合には、行政の中断を避け、行政の継続性を保障するものとして「骨格予算」を編成することが一般に認められており、それが極めて常識的な措置だとされています。
 「骨格予算」には法令上の規定や概念はありませんが、一般的に「首長や議会の改選を前後している場合に、行政活動をすべてにわたって予算計上することが困難、あるいは適当でないと判断される場合、新規の施策等を見送り、また、政策的経費を極力抑え、義務的経費(人件費や扶助費、公債費など)を中心に編成された通年予算」とされています。
 つまり、前任者が後任者のために公約の実行など政策的な独自性を加味・味付けできる余地を残すようにしつつ、施策・事業の継続性の保障と後任者による新規性の保障とを両立させるため、骨格だけを明示した「通年的な」予算です。
 どんな自治体でも、事務方がそのような準備をしていなかったとは考えにくいことです。とすれば、前任知事は果たして自分の任期中に新年度の予算の骨格を全く準備していなかったのかという疑念が浮かびます。もしそうならば、これは前任知事の怠慢にも通じることになるでしょう。新知事がこの予算の骨格を引き継ぐことをことごとく拒否して、「暫定予算」に持ち込んだのであれば、新知事は傲慢・不遜のそしりを免れることはできません。つまり、今回の「暫定予算」をめぐって、はからずも前・新知事の責任と資格が問われる事態が浮上しているということにならざるを得ないのです。
 注目されるのは、2月6日、橋本知事が就任の日に行った記者会見で「7月末までの暫定予算を提案」することを表明し、「基本的には、私の就任前における一定の『指示』に基づいて、府庁職員に無理な予算組をお願いした結果、このような方針となりました」と述べたことです。一体、当選が確定していたとは言え、前任者がまだ在任中、自分はまだ未就任の時期に府庁職員に「指示」などできるとでもいうのでしょうか。橋下知事もそのことはわきまえていたらしく、この会見の別のところでは「私の就任前、何も権限がない段階での協議」とも言っているのです。にもかかわらず、公式に「指示した」と発言したのですから、単なる「すりあわせの延長線上」と見なすわけにはいきません。明らかに越権行為であり、脱法行為というべき代物です。
 以上述べてきたことは、行政運営に当たる者の間では、極めて常識的で初歩的なことばかりです。
 いつの場合でも、予算の調製に当たっては府民の願いや要望にもとづいて、従来の施策や事業についてよく精査・吟味することは当然ですが、橋下知事が調製した「暫定予算」で問われているのは、施策上のあれこれではなく、法や条例にもとづく行財政運営の根本問題です。もし、地方自治体が首長の独断や専横によって振り回されるならば、将来にわたって禍根を残すことになってしまいます。今回の事態は、その背景に府や市町村との関係・ルールを根本的にぶちこわし、変質させようとする力が働いていることを疑わせるに充分な深刻さであるというべきでしょう。 〆
by itya-tyan | 2009-03-31 22:13 | ちょいまち草 | Trackback | Comments(1)
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Commented by 471 at 2009-05-05 17:16 x
 この5月臨時会に出てきている専決議案に、橋下知事の暫定予算の影響がありました。教育部局の担当者はブツクサ言ってましたわ。