鶴彬のこと


万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た(バンザイ)

手と足をもいだ丸太にしてかへし

胎内の動き知るころ骨がつき(コツ)

召集兵土産待つ子を夢にみる

軍神の像の真下の失業者

屍のゐないニュース映画で勇ましい(シカバネ)

高梁の実りへ戦車と靴の鋲 (コウリャン)(ビョウ)

銃剣で奪った美田の移民村

ざん壕で読む妹を売る手紙

出征のあとに食へない老夫婦

タマ除けを産めよ殖やせよ勲章をやろう (ヨ)(フ)


 鶴彬(ツル アキラ)の断片に初めて接したのは20代の半ばではなかったか。時代を撲つ川柳人の作品に衝撃を受けた。もう40年になるのかと思えば感慨深い。とは言え、この号を何と読むのかも知らず、カクリンという号かと思ったりしていた。本名がわかってからも喜多一二はキタイチジと読むのかと思っていた。カツジと読むと知ったのはずっと後のことだ。
 曲がりなりにも、ほぼ全体像を掴めたのは鶴彬全集(反戦柳人の全貌・一叩人編・たいまつ社刊)に接してからのことだ。この一文を書くために本棚をひっくり返すと出てきた。77年9月14日、初版第1刷発行とある。もう32年になるのか。定価7000円とある。しがない身には大枚だ。
 その鶴彬が今、新たに脚光を浴び、再認識されている。昨年には大阪で記念の碑が建てられた。小説もできた。「小説 鶴彬ー暁を抱いて」(吉橋通夫著・新日本出版)である。早速、購入して読んだ。改めて、多喜二に並ぶべき川柳人との思いを強くした。映画「鶴彬ーこころの軌跡」も全国上映が近いという。ネットに公式サイトも開かれている(http://tsuruakira.jp/)。
 時あたかも昭和の日、メーデー、憲法記念日、みどりの日、子どもの日と続くゴールデンウィーク。今日の日本の現状を憂い、憤り、来し方に先人の足跡を学び、行く方を開く決意を新たにする日々が続く。このブログに「今日から明日へあさってへ」と名づけた秘かな思いもそこにある。
 冒頭に掲げた鶴彬作品をもう一度じっくり味わいたい。