東京へのオリンピック招致がきまりました <7>

高円宮妃久子氏のスピーチは「国家事務」だった?!

 高円宮妃久子氏のオリンピック・プレゼンでの「冒頭発言」を巡っては色々な報道がされています。そのポイントは安倍内閣が皇室(皇族)を「政治利用」したのかどうか、ということなのですが、そこにポイントをしっかり当てた正確な報道は見あたりません。

東京へのオリンピック招致がきまりました <7>_b0142158_16375533.jpg 久子氏自身は朝日新聞記者の取材に答え、「『東日本大震災被災地支援へのお礼を申し上げるのが目的』、『招致委員会の足を引っ張りたくはなかった』とも述べ、招致活動への配慮もうかがわせた」とされています。

 プレゼンの出席に先だって注目されるべき報道がありました次のようなものです。

 久子さまは、7日にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されるIOC総会に出席し、日本の招致プレゼンテーションの冒頭で、IOCからの震災支援に対し、お礼のあいさつをされる予定となっている。

東京へのオリンピック招致がきまりました <7>_b0142158_16395485.jpg日本の皇室は、政治的な活動と距離を置いてきたことや、招致活動を政治的な活動とする立場から、宮内庁の風岡典之長官は2日、政府からの強い要請を受けた今回の決定を、「苦渋の決断」とし、「両陛下もご案じになっているのではないか」と述べた。
 菅官房長官は「今回の場合は、(皇室の)政治利用にあたらないと」と述べた。菅官房長官は、首相官邸が宮内庁側に久子さまの総会出席を要請したことを明らかにしたうえで、「復興支援に謝意を表していただくのが趣旨で、皇室の政治利用とか、官邸の圧力という批判にはあたらない」と強調した。そのうえで、「宮内庁長官の立場で両陛下の思いを推測して言及したことについて、非常に違和感を感じる」と述べ、風岡氏を批判した。

 明らかに首相官邸と宮内庁の間に激しいつばぜり合いがあったことを物語る報道です。

 その後、「宮内庁の風岡典之長官は12日の記者会見で、高円宮妃久子さまの国際オリンピック委員会(IOC)総会出席をめぐって『天皇陛下の憲法上の立場と、それを支える皇族方の活動のあり方をよく整理し、改めて考える必要がある』と述べ、今回の件を機に、皇族の活動についての考え方を宮内庁内部でまとめる方針であることを明らかにした。
 風岡長官は当初、久子さまについて『総会には出ず、招致には携わらない』と説明したが、実際は総会の東京招致プレゼンテーション冒頭でスピーチしたことについて『妃殿下は震災の被災地支援へのお礼であいさつしたのであり、招致活動ではない。当初の説明と違う結果になったが、最終判断は現地にゆだねるということでやむを得ない』と容認する考えを示した。
 久子さまが多くのIOC委員と会ったことについて『多くの人にお礼のあいさつをするのは自然なこと。だれに会ったかはできるだけ把握するよう努めたが、私的活動なので細かく聞く必要はない』と答えた」との報道があります。

 どう読んでも、風岡長官は「被災地支援へのお礼のあいさつ」であり、「招致活動ではない」と強調し、「私的活動」の範疇に収めようとしていることが窺えます。

 また、山本信一郞次長も「久子さまのスピーチ内容は『招致活動のラインは越えていない』,『日本の皇室の抑制的ななさりようを理解していただけたと思う』と述べた」そうですが、実は「宮内庁は久子さまがスピーチ終了後は退席するように招致委員会側に求めていたが,相談を受けた官邸側が『中座では逆効果になる』と拒んだ」のでした。また、「政府高官は『(久子さまに)いっていただかなければ結果が違っていたかもしれない。本当によかった』と振り返る」との報道もあります。

 注目されるのは、風岡長官発言の冒頭部分に「国際オリンピック委員会(IOC)総会出席をめぐって『天皇陛下の憲法上の立場と、それを支える皇族方の活動のあり方をよく整理し、改めて考える必要がある』と述べ、今回の件を機に、皇族の活動についての考え方を宮内庁内部でまとめる方針であることを明らかにした」とあることです。


東京へのオリンピック招致がきまりました <7>_b0142158_1641938.jpg これに対し、「再び癇に障った菅長官は、翌13日にすぐさま反論」したということです。こんな報道です。

 「宮内庁『独自』の判断によって、そういうことをする(皇室活動のあり方について検討する)ということだが、『宮内庁を所管する国務大臣』として、これまでの経緯を踏まえて、開かれた皇室を実現するという観点からも、内部でしっかり考え方を整理してほしい。その結果はしっかり報告を受けたい」と述べ、宮内庁に注文をつけた。

 まるで「宮内庁の勝手な解釈・判断は許さないぞ!」と言っているに等しい激しさです。

 ここで改めて確認しておきたいのは、天皇や皇族の活動に関する諸規程です。

 先ず、憲法第3条には「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負ふ」とあり、第4条で「天皇は…国事行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と定めたうえで、第7条でその国事行為の内容が10項目に絞って明示されています。
 言うまでもなく「国政に関する権能を有しない」のは天皇ばかりでなく、皇室全般(皇族)も同じことです。

 この天皇と天皇以外の皇室・皇族の活動と身辺にまつわる事務を取り仕切っているのが宮内庁です。これは宮内庁法で次のように規定されています。
宮内庁法
第一条  内閣府に、内閣総理大臣の管理に属する機関として、宮内庁を置く。
2  宮内庁は、皇室関係の国家事務及び政令で定める天皇の国事に関する行為に係る事務をつかさどり、御璽国璽を保管する。

 「国家事務」とはあまり聞き慣れない言葉ですが、宮内庁のHPでは、次のように説明されています。
 皇室関係の国家事務には,天皇皇后両陛下を始め皇室の方々の宮中における行事や国内外へのお出まし,諸外国との親善などのご活動やご日常のお世話のほか,皇室に伝わる文化の継承,皇居や京都御所等の皇室関連施設の維持管理などがあります。
 つまり、皇室(皇族)の政治的権能にかんする以外の諸活動と身辺の世話に携わるのが宮内庁の仕事ということです。

 さて、結論です。
 先に見たように、安倍首相はオリンピック招致を「国家戦略」と位置づけていました。この戦略にもとづいて、政権・政府が(JOCの要請ではなく)高円宮妃久子氏のオリンピック・プレゼン出席を求め、久子氏が異例のスピーチをおこなったのです。
 この結果に宮内庁は弱りきって、当初は出席を渋り、スピーチはしたとしてもそれは「被災地支援へのお礼」に限り、終われば直ちに退席という絵を描いたのでした。しかし、その策は水泡に帰してしまいました。
 久子氏のスピーチが東京への誘致の決定的な一打になったことは、国際的にも疑う余地がありません。
 政府は「開かれた皇室」を口実に、皇室の政治的利用の扉をこじ開けたのです。
 宮内庁が果たして今回の久子氏のオリンピック・プレゼンへの参加が通常の「国家事務」に該当したのかどうかを検討することも許さないという、強硬な姿勢を示しているのです。
 安倍首相はオリンピック招致をアベノミクスの「第4の矢」とまで公言し有頂天になっています。つまり、オリンピックを「国家戦略」の一環にさせ、「国威発揚の場」にしたてあげようとしているわけです。しかし、これは憲法上も、宮内庁法にもとづいても重大な疑義のある、厳しく批判されるべき事態だと言わねばなりません。
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 招致委員会はオリンピックプレゼンに久子氏が登場したことを公式には書けない。しかし、世間ではその報道が走り回り、久子氏のスピーチが高く評価されている。
 政府関係者は、誘致活動ではなく、「被災地支援へのお礼だ」と強弁し続ける。皇室の政治利用だったのかどうかをめぐって、内閣官房と宮内庁がつばぜり合い。
 素知らぬ顔で、安倍首相は「国家戦略」だ、「第4の矢」だとはしゃぎまわる。
 事態はまさに「政治的」に進行し、いつまでたっても赤信号が灯り続けているのです。(続く)