蝮咬傷顛末之記(まむしこうしょうてんまつのき)

 7日8日と神戸・しあわせの村で開かれていた会議が終わり、帰宅してホッとしていた。
 夕食を終え、唯一の畳の部屋でごろ寝をしていると右足、親指の先がチクリと痛んだ。
 何だろうと思って起き上がると、細くてさほど長くもない蛇がいる。灰褐色めいた模様があるので青大将ではない。が、何かよくわからない。にょろにょろと這っている。
 火挟で捕まえようと、玄関先まで出て探すが見つからない。ことは急ぐ。家に入って適当なものは無いかと探す。薬箱からピンセットを見つけた。これで掴もう!ピンセットを持って蛇を追う。板の間まで移動している。ことは急ぐ。
 よく見ると小さな蝮(まむし)のようだ。ピンセットで首根っこを摘む。が、少しそれて首から1センチほどのところを摘んでしまった。2階で寝ている妻を呼ぶ。「えらいこっちゃ、蛇がおった」。途端に右手、中指の爪の根元に痛みが走った。これはダメだ。もう一度摘みなおす。今度はちゃんと首根っこを摘めた。摘んだまま、玄関先に走り出て、自宅前の用水に放り投げる。これで一件落着かと思えた。
 が、そうはいかなかった。咬まれた右手・中指の先、2カ所から血がどくどくと溢れ出している。水道水で洗うが治らない。
 「どうしようか?」
 「市役所に電話して、対処方を尋ねてくれ」
 問い合わせると、「救急車をまわします」とのことらしい。
 救急車が来るまで数分。初めて患者(クランケ)として救急車に乗る。車中ではしばしどの病院へ行くかと応答がある。ホンの少しの間に、右手全体が腫れ始めている。初めは城山病院とのことだったが、すぐに富田林病院に切り替わる。車窓を眺めるが、どこをどう走っているのかよく分からない。
 富田林病院に着くと当直医が傷口を見て「間違いなく蝮ですねぇ。今夜は二人目ですヨ」と応急処置をしてくれる。「入院してもらいましょう。手続きを…」とてきぱき。傷口を洗浄し、まず破傷風防止と痛み止め2種類の点滴。終了後病室へ移動。ここでも点滴。
 翌日は土曜日だったが担当医の診断があり、血清注射(点滴)。その後、定期的に体温、血圧の測定、包帯の交換などで数日を過ごす。特筆に値するのは昼、夜の食事。温かいものは温かく、冷たいものは冷たくという給食の原則を守った、家庭的なイメージのあるうまい食事だ。ほぼ完食できたのは少食のボクには珍しい。
 そんなこんなの顛末で、今はこれといった治療もなく、自宅で腫れの引くのを待つしか無い。もう10日を過ぎたのに痛み、腕の浮腫み、痒みは去りやらずうっとおしい気分で過ごしている。この間、諸般の行事はことごとく欠席させてもらったが、来週にはバス旅行や東京での会議、四国での会議などなど、どうしても参加、出席すべき日程があり、早く完治してほしいと願うのみだ。

 なお、後日譚として記しておきたいことがある。
 一つは、ピンセットで捕まえようとしたのは、いかにも不用意であったこと。始めに火挟を思いついたのでピンセットになったしまったが、側には金槌もあった。これで頭部に一撃を加えていればこんな羽目には陥らなかっただろう(もっとも、始めに「殺す」という意識が全く無かったけれど)。
 もう一つは、どうして居間(畳の部屋)に蝮などがいたのか、ということ。これは今も謎で、網戸の隙間などを点検してみると入れそうなところはあるにはあるが、これからも気をつけなければいけないのだろう。今年はなぜか猫の額のような庭に異常を感じるほど、小さなカエルがたくさんいたことも気にかかる。薄気味悪い話ではある。

 * 蝮咬む 拷問よりは 軽いだろ *