20 義務的経費

 危険な「一律ゼロベース」論

 国・地方を問わず行財政が効率的に執行される必要があることは論を待ちません。同時にそれが戦後築かれてきた、憲法や地方自治法の諸原則に基づいて国民・住民本位に民主的に運営されているかどうか、厳しく吟味することも大切です。その目で橋下知事の「ゼロベース」論を検討してみましょう。
 国は地方自治体の一般歳出を三つに区分し、「公共関係費とは、公共事業関係費とその施設費」、「裁量的経費とは、政策判断によりその水準や内容について柔軟に見直しができる、裁量性の高い経費」、「義務的経費とは、人件費、年金・医療等、支出が法定されている経費など、制度的な枠組みを背景として支出水準や内容が決定される非裁量的・義務的な経費」としています。「法定」という場合、都道府県においては法律だけでなく、条例や規則に定められている諸事業も当然入ります。この「義務的経費」にも切り込むのが橋下知事の「ゼロベース」論の危険なところです。
 大阪府のホームページの「財政関係用語の解説」には「職員の給与等の人件費、生活保護法に基づく生活扶助等の扶助費及び府債の元利償還等の公債費は、その支出が義務づけられており任意に削減できない経費であることから、義務的経費といわれます」とあります。「非裁量的」、「任意に削減できない」とは文字通り、知事の一存や行政の都合だけで勝手に削ることはできないということです。澤井勝・奈良女子大名誉教授もホームページで「人件費などはその自治体が従来の政策の結果、到達している水準であって、その事情は尊重されなければならない。一面的な指導になじむ性格のものではない。また生活保護費など扶助費は、地域社会の歴史や地域性を背景にしてかさんでいる場合が多く、それを抑制しようとする自治体の政策には限界がある」と指摘しています。
 この制約を強引にうち破ろうとしているのが、橋下知事の「一律ゼロベース」論です。知事はこの間、「説明努力」や「決定過程の公開」を誇っていますが、「経費削減」にかかわる府民や関係団体との「合意の手続き」には熱心ではありません。「府民こそ主人公」という視点が欠けているのです。