実効性のある住民投票制度に

 住民投票には大別して三つのタイプがあると言われます。その一つは、前回に見た直接請求にもとづき「施策の是非を問う」ためにおこなわれるもので、その都度議会にはかり、住民投票条例制定の可否が決められる「個別」条例です。
 二つめは「常設型」住民投票条例と言われるものです。たとえば、岸和田市では05年に「市及び住民全体に利害関係を有する事案であって、住民に直接その賛否を問う必要があるとみとめられるもの」全般について「住民投票条例」が制定されています。これは全国的にみてもまだ少数です。
 三つめは最近少しずつ増えはじめている「市民参加条例」や「自治基本条例」、「町づくり基本条例」などによって住民投票を制度化するものです。これらの条例には解釈や運用について注意を要する条項もあり、注意が必要ですが、住民投票については一応「制度化」されています。府内では箕面市、岸和田市、池田市、大東市、吹田市、柏原市などにこのような条例ありますが、住民投票の制度化には大きな差があります。
 直接請求による場合、請求者は「選挙権を有する者」に限られますが、住民投票条例による場合、その請求にも、投票にも、資格者の年齢を20歳未満に引き下げる、定住外国人にも広げるなど、より「住民」の概念に近づけるよう工夫することができます。
 ただし、住民発議による住民投票条例は否決される場合が圧倒的に多いのが実態です。辻山幸宣氏(地方自治総合研究所理事・主任研究員)によれば、85年から02年にかけて住民提案による条例案149件のうち可決11件(7.4%)。首長提案によるもの38件、うち可決30件(78.9%)。議員提案によるもの36件、うち可決17件(47.2%)となっています。同氏は「議会や長の決定独占状態への疑問から発したと思われる住民投票条例制定の動きは、いまでは長と議会の決定独占・なれ合いを助長しているかのように思われてならない」とその間の事情に疑問を呈しています。
 こうした問題点を解決するため、日本共産党は00年11月いらい、「住民が意思を表明する機会を安定的、普遍的に保障するための住民投票制度の法制化」を求めて「住民投票法案大綱」を提起しています。
市長の見解と議会審議のあり方がネック
 圧倒的な世論づくり、運動が成否のカギ

 「条例の制定・改廃」の直接請求には、大別して①施策・要求そのものの条例化を求める請求と、②施策の是非を問う住民投票条例の制定を求める請求とがあります。
 府内では、前者の例に「パート労働者の退職金制度を求める(吹田市)」、「政治倫理条例の制定を求める(82年・堺市)」、「国民健康保険料の引き下げを求める(91年・東大阪市)」などの請求があげられます。なかでも、東大阪市の場合は7万5千人の署名、有権者比約2割にのぼる画期的なものでした。この請求は議会では否決されましたが、翌年の予算編成ではさすがの清水市長(当時)も考慮に入れた措置を取らざるを得ず、一定の成果に結びつきました。大阪狭山市では03年に「堺市との合併協議会設置を求める」請求が提出されましたが議会で否決、協議会は設置されませんでした。
 住民投票条例の制定を求める直接請求では大東市で「市立保育所民営化の是非を問う住民投票の請求(02年・議会で否決)」があり、06年には吹田市で「梅田貨物駅の吹田操車場跡地移転への市民の意思を問う住民投票」を求める請求が成立しています。これは署名運動が展開中であることを知りつつ、強引にも市長が先に「合意協定」を調印。事実上無効化されてしまいましたが、火種は消えるどころではありません。
 また、04年に守口市と門真市の「合併の是非を問う住民投票を求める直接請求」が成立し、住民投票がおこなわれました。門真市では「投票率50%以下の場合には開票しない」という50%条項に阻まれ、開票されませんでしたが反対の世論は極めて強かったのです。一方、守口市では投票率50.64%で開票され、反対が87%にのぼりました。その結果、両市それぞれの合意で「合併協議会」は解散となったのです。
 直接請求が成立したとき、首長は意見をつけて議会に送ります。請求代表者には議会で趣旨を訴える機会が与えられます。しかし、首長が請求の趣旨に反する意見をつけることや議会での審査が形ばかりという場合も多く、請求の提出に先立って圧倒的な世論づくり、運動を構築しておくことが決定的に重要です。
選挙権・被選挙権とならぶ参政権の裏付け

 道州制や市町村合併に触れたので、住民投票といきたいところですが、少しまわり道をして、まず「直接請求」について確認しておきましょう。
 憲法や地方自治法が保障する参政権は選挙権・被選挙権とともに、いくつかの内容を持った直接請求権から成り立っています。国民・住民は、基本的には国会議員や地方議員、自治体首長の選挙をすることによって政治に参加(代議制・間接民主主義)していますが、より直接的に民意を政治や行政に反映させる補完的な手だてとして、直接請求権が保障されているのです。その意味で直接請求権は間違いなく基本的人権の一つです。
 地方自治法では、その内容として①条例の制定・改廃の請求、②地方公共団体の事務監査の請求、③地方議会の解散請求、④首長・議員の解職請求、⑤主要公務員の解職請求などの規定と手続きが定められています(表参照)。事務監査と住民監査のちがい、住民訴訟、合併特例法による合併協議会の設置請求や住民投票の規定については、機会を改めて触れることにしましょう。
 住民が条例の制定・改廃を求めることを英語ではイニシアティブ(発議権)と言います。解職は一般にリコールと言われますが、日本語と英語では少し語感が違うようです。解職には罷免・免職、平たく言えばクビにするという強い語感をともないます。しかし、リコールという言葉は本来、難しく言っても召還、つまり呼び戻すということです。首長や主要公務員、議員の立場を離れて一市民の立場に戻ってきなさい。「帰っておいで〜」ということですから、きつい、険悪なニュアンスではありません。むしろ、市民大衆の懐の深さ、包容力すら感じさせる言い回しではないでしょうか。
 地方自治法でいう主要公務員とは、副知事、副市町村長、選挙管理委員、監査委員、公安委員などであり、他に、教育委員や農業委員、漁業調整委員についてもそれぞれの法律にリコールの規定があります。
道州制に先鞭つける「関西広域連合」に監視の目を

 番外ですが、3月末に「関西広域連合」が今夏にも基本合意にいたる見込みであるとの報道があったので、これについて少し考えてみましょう。
 関西経済連合会(関経連)は橋下知事が就任する2月6日づけで「大阪新府政に望む」という要望書を提出し、「広域的課題に向けた主導的役割」の項で「分権型社会の構築に向けた道州制のステップとして、2008年半ばに関西広域連合設立の基本合意がなされるよう、大阪府がリーダーシップを発揮すること」と注文をつけていました。つまり、「関西」が先陣をきって、府県間では全国初の「広域連合」を発足させ、道州制のお膳立てをすすめるというわけです。準備してきたのは、近畿の2府4県と福井、三重、徳島の三県、堺市を含む四政令市、関経連や各地域の7つの経済団体です。
 その背景には、この最近「道州制」をめぐる動きが急展開してきたことがあります。地方制度調査会が「道州制のあり方に関する答申」(06年2月)を出したのに続き、道州制担当大臣の任命、「道州制ビジョン懇談会」の新設(07年1月)、「地方分権改革推進本部」の設置と「推進にあたっての基本的な考え方」の提示(07年5月)、「道州制ビジョン懇談会中間報告」(08年3月24日)などがそれです。
 これらに共通しているのは、国(中央政府)の権限を制限して、9〜14からなる「地方政府(道州)」を設立(つまり都道府県を廃止)するということです。国の役割を皇室や外交、国家安全保障、治安などに「限定」し、道州(地方政府)の立法権・行政権・財政権をもたせて「広域的な行政」にあたらせ、市町村(基礎自治体))に対人サービスにあたらせるというのがそれぞれの「役割」のおおまかな姿です。
 問題なのは道州制が「国のあり方、国のかたちそのものにかかわる重要な政治改革」(地方分権改革推進委員会・基本的な考え方)であるにもかかわらず、ほぼ完全に財界主導・自公政権の独断で構想・推進されていることです。
 このような背景をみれば住民不在、地方議会でのまともな議論も経ないまま、「関西広域連合」を発足させることには厳格な監視と批判が必要だと言わねばなりません。
平成の大合併、行く末は道州制の土台づくり?

 前回、「道州制をめぐる動きが急展開」していることを紹介しました。これは地方分権改革推進委員会や道州制ビジョン懇談会などが一体になって進めているもので、2010年にはあらたな「分権一括法」や「道州制基本法」を提出し、「2018年までに道州制に完全移行(ビジョン懇談会)」などとするものです。
 そこでは、この間すすめられてきた市町村合併のねらいが道州制への土台づくりであったことがあけすけに語られています。たとえば、「『平成の大合併』により基礎自治体の体制整備が進んできた。いまこそ、築かれた『ベースキャンプ』を発ち、地方政府の確立を目指して大胆な歩を刻むべき時機である(推進委員会)」という具合です。
 総務省のホームページによれば、99年3月末に3232あった市町村が本年4月時点で1788(11月には1785の見込み)とほぼ半減していますが、「1000を目標(00年閣議決定)」、「道州制導入時には30万人規模の300市程度」と言われてきたことを考え合わせると、合併押しつけの波はまだまだ続くものと見ておくべきでしょう。
 なぜこうした大型合併が必要なのでしょうか。道州制のねらいが中央政府の役割を極力スリム化させ、強力な権限をもった地方政府・道州をつくることにあり、従来の都道府県の仕事の大部分を「基礎自治体(市)」に担わせるようとしているからです。
 現に「ビジョン懇談会中間報告」は基礎自治体の役割を「具体的には、①住民の安全安心、消防、救急、②社会福祉(児童・高齢者など)、保育所・幼稚園、③生活廃棄物収集・処理、公害対策、保健所、④小中高等学校、図書館、⑤公園、都市計画、街路、住宅、下水道、⑥戸籍、住民基本台帳および⑦地域振興にかかわる産業・文化行政全般を分担する」としているのです。
 これでは住民は自治体行政からいっそう遠ざけられたうえに、基礎自治体は国や都道府県が投げ出したくてたまらなかった仕事を押しつけられる、ゴミ箱のような存在になってしまいかねません。