橋下知事の教育暴言を考える

▼「このざまは何だ。教育委員会は最悪だ」、「みんなお飾りだ」、「クソ教育委員会」、「(教育委員会は)関東軍みたい」。8月末から9月中旬にかけて橋下知事の暴言が連発された。衆人の耳目を集める「劇場型」の演出と見る向きもあるそうだが、筆者はむしろ「激情型」の危なっかしさを懸念する。「おかんに怒られたからもう使わない」などと冗談ですませる話ではない。

▼そもそも全国規模で行われる「学力テスト」とは一体何だったのか。政府は今回の「学力テスト」再開にあたって「児童生徒の学力状況の把握・分析、これに基づく指導方法の改善・向上を図るため…」と称していたのだから、テストの結果はまず、この間、学習指導要領などに盛り込んできた内容の適不適、教育環境や教育条件整備の適不適を吟味することが先決であり、文科省などが虚心に参照すべきものだ。
▼その反省や教訓を明示することなく結果だけを公表すれば、とんでもない事態が起こることは容易に想定できた。文科省は60年代に行われた「全国学力テスト(学テ)」が「学校や地域間の競争が過熱したこと」、ひいては旭川地方裁判所の「違法」判決を経て「中止」にいたった教訓をどう学んでいたのか。

▼安倍首相(当時)は今回のテストについて「個々の市町村名や学校名を明らかにした結果の公表は行わない。序列化や過度な競争をあおらない」などと明言していた。実務上の責任者である文科省の高口努氏もテストを請け負ったベネッセのホームページ上で「国に対して情報公開法に基づく公開請求があった場合には、不開示情報として扱いますが、各自治体の条例に基づく請求に対しても、同じ方針で臨んでください」と明記していたではないか。今、地方で、なかんずく大阪でおこっている「混乱」は正に政府や文科省の高見の見物、無責任から起こっていると言っても過言ではない。橋本知事は激情の刃を地方の教育委員会に向けるべきではない。

▼橋下知事の予算や「人事権」をカタにとった恫喝も見過ごせない。標的は「教育の中立性」にある。一般に「教育の中立性」は戦前の絶対主義的教育の反省から確立されたと解する向きが多い。それはそうだが、この際「教育の自由」という観点から捉え直しておく必要があるのではないか。そもそも教育という営みは、真実や真理に忠実でなければならず、そのためには時の権力や政治支配からの独立・自由が求められる。なぜなら、時の権力、時の多数派、時代の常識が必ずしも真理や真実であるとは限らず、被支配・少数派・非常識の中に真実・真理が含まれている場合がしばしばあったし、今もあるからだ。だからこそ、改悪前の教育基本法はこのことを「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負って行われるべきもの」と述べていた。文面は改悪されても、小坂憲次文科相(当時)は国会で「国家的介入は抑制的であるべき」と認めざるを得なかった。地方においても「首長部局の介入は抑制的であるべき」なのだ。抑制のきかない激情型の介入は、冷静な党派を超えた団結の力で跳ね返すしかない。

☆ この直後に、中山氏の暴言が問題となり、大臣辞任、ついには次期総選挙での立候補取りやめとなったことは、意味深い…!


地方政治の基礎用語の連載は、既に30回を数えているのですが、このブログへの更新が遅れています。原稿が職場と家のPCに散らばっているので、拾い集めないといけません。今日は、一挙に更新しようと思ったのですが、失礼しました。
代わりに、月一回の予定の新しいコーナー・「ちょいまち草」をつくりました。大阪観察月記です。あわせてご笑覧ください。
 新手の市町村合併推進法

 「平成の大合併」と言われた市町村合併は「旧合併特例法」下でしゃにむに進められたうえ、さらに10年3月までの「合併新法」が施行されています。
 大阪府はこの2月「自主的な市町村の合併に関する構想」を発表。旧法下で「11研究会、6合併協議会が設置され、34市町村(77%)が参画。8市町で住民投票が実施され、6市町が反対多数。堺市と美原町の合併のみ成立」と述べ、新法の下では「当面、河内長野市と千早赤阪村を対象」としています。しかし、00年12月に示した「30通りのパターンは参考となる」とし、「合併新法で付与された都道府県及び知事の勧告権を適切に行使する」と合併推進の構えは崩していません。
 この合併新法には、とんでもない魂胆や奇策がこめられています。その一つは新法では殊更に「自主的な合併」を強調しているのすが、その本音は「住民一人ひとりが自分のまちの将来に強い関心を持ち、チェックしていくことが重要」と、あたかも合併促進こそが「市民の責務」であるかのように説教していることです(ちなみに、新法では合併特例債の制度は廃止され、特典はなくなりました)。
 もう一つは「住民発議」、「住民投票」に関わる規定です。これは95年、99年、02年と立て続けに「強化」されてきた奇怪なものです。かいつまんで紹介しておきます。
 もともと、住民は合併対象の市町村を指定して合併協議会の設置を直接請求できます。しかし、議会が否決すれば協議会は設置できませんでした。ところが合併対象の市町村がその設置を受け入れる議決をしている場合には、請求側の首長は直接に、住民は有権者の6分の1の署名を以て、選挙管理委員会に住民投票を請求できることになったのです。しかも、この住民投票の結果、有効投票の過半数の賛成があったときは「議会が可決したものとみなす」という「みなし規定」が明文化されました。
 住民投票で過半数を得た結論に議会や行政が従うというのは一見もっとものようですが、実際には原発立地、米軍基地移転、艦載機問題などでは住民投票の結果がしばしば反故にされています。合併協議会設置の場合にだけ、議決に反して住民投票ができ、議決不要の「みなし規定」が適用されるのは奇妙なことではないでしょうか。
実効性のある住民投票制度に

 住民投票には大別して三つのタイプがあると言われます。その一つは、前回に見た直接請求にもとづき「施策の是非を問う」ためにおこなわれるもので、その都度議会にはかり、住民投票条例制定の可否が決められる「個別」条例です。
 二つめは「常設型」住民投票条例と言われるものです。たとえば、岸和田市では05年に「市及び住民全体に利害関係を有する事案であって、住民に直接その賛否を問う必要があるとみとめられるもの」全般について「住民投票条例」が制定されています。これは全国的にみてもまだ少数です。
 三つめは最近少しずつ増えはじめている「市民参加条例」や「自治基本条例」、「町づくり基本条例」などによって住民投票を制度化するものです。これらの条例には解釈や運用について注意を要する条項もあり、注意が必要ですが、住民投票については一応「制度化」されています。府内では箕面市、岸和田市、池田市、大東市、吹田市、柏原市などにこのような条例ありますが、住民投票の制度化には大きな差があります。
 直接請求による場合、請求者は「選挙権を有する者」に限られますが、住民投票条例による場合、その請求にも、投票にも、資格者の年齢を20歳未満に引き下げる、定住外国人にも広げるなど、より「住民」の概念に近づけるよう工夫することができます。
 ただし、住民発議による住民投票条例は否決される場合が圧倒的に多いのが実態です。辻山幸宣氏(地方自治総合研究所理事・主任研究員)によれば、85年から02年にかけて住民提案による条例案149件のうち可決11件(7.4%)。首長提案によるもの38件、うち可決30件(78.9%)。議員提案によるもの36件、うち可決17件(47.2%)となっています。同氏は「議会や長の決定独占状態への疑問から発したと思われる住民投票条例制定の動きは、いまでは長と議会の決定独占・なれ合いを助長しているかのように思われてならない」とその間の事情に疑問を呈しています。
 こうした問題点を解決するため、日本共産党は00年11月いらい、「住民が意思を表明する機会を安定的、普遍的に保障するための住民投票制度の法制化」を求めて「住民投票法案大綱」を提起しています。
市長の見解と議会審議のあり方がネック
 圧倒的な世論づくり、運動が成否のカギ

 「条例の制定・改廃」の直接請求には、大別して①施策・要求そのものの条例化を求める請求と、②施策の是非を問う住民投票条例の制定を求める請求とがあります。
 府内では、前者の例に「パート労働者の退職金制度を求める(吹田市)」、「政治倫理条例の制定を求める(82年・堺市)」、「国民健康保険料の引き下げを求める(91年・東大阪市)」などの請求があげられます。なかでも、東大阪市の場合は7万5千人の署名、有権者比約2割にのぼる画期的なものでした。この請求は議会では否決されましたが、翌年の予算編成ではさすがの清水市長(当時)も考慮に入れた措置を取らざるを得ず、一定の成果に結びつきました。大阪狭山市では03年に「堺市との合併協議会設置を求める」請求が提出されましたが議会で否決、協議会は設置されませんでした。
 住民投票条例の制定を求める直接請求では大東市で「市立保育所民営化の是非を問う住民投票の請求(02年・議会で否決)」があり、06年には吹田市で「梅田貨物駅の吹田操車場跡地移転への市民の意思を問う住民投票」を求める請求が成立しています。これは署名運動が展開中であることを知りつつ、強引にも市長が先に「合意協定」を調印。事実上無効化されてしまいましたが、火種は消えるどころではありません。
 また、04年に守口市と門真市の「合併の是非を問う住民投票を求める直接請求」が成立し、住民投票がおこなわれました。門真市では「投票率50%以下の場合には開票しない」という50%条項に阻まれ、開票されませんでしたが反対の世論は極めて強かったのです。一方、守口市では投票率50.64%で開票され、反対が87%にのぼりました。その結果、両市それぞれの合意で「合併協議会」は解散となったのです。
 直接請求が成立したとき、首長は意見をつけて議会に送ります。請求代表者には議会で趣旨を訴える機会が与えられます。しかし、首長が請求の趣旨に反する意見をつけることや議会での審査が形ばかりという場合も多く、請求の提出に先立って圧倒的な世論づくり、運動を構築しておくことが決定的に重要です。