上山慧氏の論考を読む!

 過日、上山慧氏から4冊の本をいただいた。昨日持ち帰り、今朝通読した。
 4冊は発行順に「大谷大學史學論究」第23号、「熊野誌」第64号、「歴史と神戸」第57巻第3号、「大阪民衆史研究」第71号であり、それぞれに上山氏の論考が掲載されたものだ。  同氏は大谷大学大学院文学研究科博士後期課程で学術研究に勤しむ若き研究者だ。彼は明治末期に引き起こされた「大逆事件」の研究を事としている。
 論考のテーマは、それぞれ「毛利柴庵と『牟婁新報」への弾圧」、「峯尾節堂の生涯と思想」、「井上秀天と初期社会主義者との関係についてー神戸平民倶楽部における活動と大逆事件を中心にー」、「神戸における大逆事件関係者について」と題されている。この4つの論考について詳述するのは難しいから、気のついた断片だけを紹介しておく。
 「大逆事件」そのものは明治政府がデッチあげた最初の社会主義者・無政府主義者への大弾圧事件としてよく知られるので詳述はしないが、初期社会主義の相貌を極めるのは簡単ではない。著者の注目点の一つはそこにある。
 著者は「事件に連座した26名の被告のうち、内山愚童・高木顕明、峯尾節堂の3名は仏教者であった。事件容疑者として捜索を受けた者に、真言宗御室派ん毛利柴庵と曹洞宗の井上秀天がいた」と仏教者の存在に注目している。毛利柴庵については、「混沌たる諸思想の状態にあった『初期社会主義』を明らかにするために」「毛利柴庵の思想の状況や『牟婁新報』論調をみる」というのである。宗教者、なかんずく仏教者が「無政府共産」という思考に傾く過程はそれぞれ興味深い。
 通読して強く感じるのは、当時の思想家、実践家は共通して思想、信条、言論、集会、結社の自由について強い見識を持ち、当時の権力的横暴に対して堂々と立ち向かっていたということだ。