18 住基ネット

 自己情報の管理は憲法上の権利

 もう少し、住基ネットをめぐる問題点を検討しておきましょう。何らかの公的年金を受給している方ならお気づきでしょうが、現況届(生存確認)の提出が不要になりました。住基ネットを使って確認しているからです。つまり、本人が全く知らない間に個人情報が「覗かれ、利用されている」わけです。生存確認された年金受給者の情報は各自治体に知らされ、各自治体から介護保険料などの金額が応答されて、年金からの天引き(特別徴収)が成立するのです。
  住基ネットへの記録の書き込みは、住民基本台帳(住民票)の14項目あまりのうち、本人確認のための4情報(氏名、住所、性別、生年月日)と住民票コード、変更経過情報の6情報に限られていますが、情報の提供及び利用が可能な行政事務は国、地方あわせて275事務もあり、既に3360万件にのぼる情報が提供・利用(05年4月現在)されています。 しかも政府や財界は今後、住基ネットの民間活用にも道を開こうとしているのですから、「監視社会への一里塚」と警戒されるのは当然のことです。
 そもそも個人情報の管理や運用について、どう考えるべきなのでしょうか。大阪高裁判決(06年11月30日)や最高裁第一小法廷判決08年3月6日)はとても示唆に富んでいます。
 大阪高裁は「プライバシーの権利」は「憲法13条によって保障されている」として「(個人情報が)自己の知らないうちに、他者によって勝手に収集、利用されれば、民主主義社会における自己責任による行動の自由(人格的自律)や私生活上の平穏がおびやかされる」として、明確に「自己情報コントロール権」を認め、告訴人の個人情報を住基ネットから削除するよう命じました。ところが、最高裁は憲法第13条にもとづき「何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する(67年、最高裁大法廷判決)」ことは認めつつ、①システムの不備による情報漏洩の危険はない、②目的外利用は懲戒処分又は刑罰をもって禁止されている、③情報保護処理委員会など適切な取り扱いの制度的措置が講じられている、として住基ネットからの削除を否定したのです。しかし、現に想定外の情報流出やトラブルは全国でおこっています。こんな「セミの抜け殻のような最高裁判決(全国弁護団・山本博団長)」を許せるわけがありません。