今朝の新聞「朝日歌壇」を読んで驚いた。
馬場あき子、佐々木幸綱、高野公彦、永田和宏の選者4氏がこぞって選んだ短歌に出会ったからだ。重複して選ばれることは時にあるが、選者全員にこぞって選ばれることは珍しい。
中三の秋がゆっくり深まって無口な人の魅力に気付く 松田梨子
選の第一首に選んだ馬場氏は「松田梨子さんももう中三なのだ。『無口な人の魅力』に気付いたのも魅力がある」と評す。
第二首に選んだ佐々木氏の評は「子ども時代から青年期へ。下句すばらしい」。
ボクも素直にいい歌だなと思う。淡い恋心が秘められているのかも知れない。それはともかく、「最近の子どもたちはケータイやスマホを使い慣れているので、短い文章が上手だ」という声を聞いたことがある。そうかも知れない。
上の句に「中三」とあるから、選者もそろって眼をひかれたことだろう。馬場氏が「もう中三なのだ」と書いておられるところを見ると、常連なのかも知れない。いずれにせよ若い人達の登場で、短詩形文学の新しい道が拓かれる可能性を秘めた、いい話だと思う。
もう一つ、2氏に選ばれた青年の短歌がある。
職業は就活生です新宿のハンバーグ屋で夜行バスを待つ 安良田梨湖
第1首に選んだ高野氏の評は「就活の辛さ。これから岡山に帰るのだろう。別の葉書に<
『新幹線にせられえ』なんて言うな母よ十か月の就活生に>の歌もある。この歌も良い」というものだ。
佐々木氏は選んだ10首のうち4首に「会話体の言葉を生かした作が並んだ」と書いておられる。近年の短歌が文語調を離れつつあるのに加え、会話体の導入がが新しい兆しということかも知れない。
つけても、「職業は就活生」、「十か月の就活生」という言葉に今日の青年の苦悩が見える。少し自嘲の意がこもっているようにも読めて痛々しい。
ダブってはいないが、安良田さんのもう一つの短歌を永田氏が第一首に選んでおられる。
失恋とおなじだ履歴書返されて気まずい会社が増えるってことは
永田氏は「安良田さん、返される履歴書に憤慨もするが、失恋に例えられるくらいの余裕があれば大丈夫」と評というより、返信、激励めいた言葉を記されている。
若者が苦境に耐えつつ短歌を詠む。その姿に共感を寄せつつ、若者たちに明日の短歌界を托したいという、選者のみなさんに共通した思いが読み取れる。
ボクは短詩形文学としては5・7・5の世界、俳句や川柳が極限に近いと思っているが、歌壇の現況や将来にもしっかりと眼を凝らしていかなければ…と再認識した次第だ。