自己情報の管理は憲法上の権利

 もう少し、住基ネットをめぐる問題点を検討しておきましょう。何らかの公的年金を受給している方ならお気づきでしょうが、現況届(生存確認)の提出が不要になりました。住基ネットを使って確認しているからです。つまり、本人が全く知らない間に個人情報が「覗かれ、利用されている」わけです。生存確認された年金受給者の情報は各自治体に知らされ、各自治体から介護保険料などの金額が応答されて、年金からの天引き(特別徴収)が成立するのです。
  住基ネットへの記録の書き込みは、住民基本台帳(住民票)の14項目あまりのうち、本人確認のための4情報(氏名、住所、性別、生年月日)と住民票コード、変更経過情報の6情報に限られていますが、情報の提供及び利用が可能な行政事務は国、地方あわせて275事務もあり、既に3360万件にのぼる情報が提供・利用(05年4月現在)されています。 しかも政府や財界は今後、住基ネットの民間活用にも道を開こうとしているのですから、「監視社会への一里塚」と警戒されるのは当然のことです。
 そもそも個人情報の管理や運用について、どう考えるべきなのでしょうか。大阪高裁判決(06年11月30日)や最高裁第一小法廷判決08年3月6日)はとても示唆に富んでいます。
 大阪高裁は「プライバシーの権利」は「憲法13条によって保障されている」として「(個人情報が)自己の知らないうちに、他者によって勝手に収集、利用されれば、民主主義社会における自己責任による行動の自由(人格的自律)や私生活上の平穏がおびやかされる」として、明確に「自己情報コントロール権」を認め、告訴人の個人情報を住基ネットから削除するよう命じました。ところが、最高裁は憲法第13条にもとづき「何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する(67年、最高裁大法廷判決)」ことは認めつつ、①システムの不備による情報漏洩の危険はない、②目的外利用は懲戒処分又は刑罰をもって禁止されている、③情報保護処理委員会など適切な取り扱いの制度的措置が講じられている、として住基ネットからの削除を否定したのです。しかし、現に想定外の情報流出やトラブルは全国でおこっています。こんな「セミの抜け殻のような最高裁判決(全国弁護団・山本博団長)」を許せるわけがありません。
 適正な管理が行政の課題

 「戸籍法」は日本国民に子どもが生まれ、結婚し、死亡したときなどに本人の本籍地または届出人所在地での届け出を義務づけています。この届け出にもとづいて戸籍に編入、新調、抹消がされます。この戸籍の所在地が本籍地であり、正本を市区町村長が管理、副本を管轄法務局が保存します。ちなみに、この本籍地は日本の領有権が及んでおり、住所・地番がわかっているところなら、どこにでも置くことができ、自由に移動(転籍)もできます。ただし、この5月1日から届け出や証明書の取得の際の本人確認が厳しくなりました。
 「住民基本台帳法」は「住民の居住関係の公証」、「住民に関する記録の適正な管理を図るため」、「個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳(住民票)を作成する」としています。この住民票には、氏名、出生の年月日、男女の別、世帯主とその続柄、戸籍、住所、選挙人登録の有無や健康保険、年金関係など、住民としての基本的な情報が記載されます。言わば、住民の個人としての基本的な属性が行政によって一元的に管理されている、ということでもあります。このような個人情報の取り扱いについて、慎重であるべきことは言うまでもありません。
 ところが02年8月、この住民票に11ケタのコードをつけ、市区町村、都道府県、全国センター、各種行政機関を一つにつなぐ「住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)」が稼働し、03年8月からは「住基カード」の発行も始まりました。いわゆる「国民総背番号制」の稼働です。住基ネットの全国センターそのものの所在地は公表されていませんが、「住基カード」の作製にはNTT、凸版印刷、マクセル、日立、松下、東芝、富士通などが参入、住民の基本情報管理が「市場化」されたのです。
 しかし、住民情報保護の観点から幾つかの自治体が「住基ネット」への接続を見合わせ、住民からの提訴によって金沢地裁や大阪高裁などが「違憲」との判断をくだしてきました。これを不服として上告した守口市と吹田市についてはこの3月6日、最高裁が覆してしまいましたが、上告しなかった箕面市については違憲判決が確定しています。
 住所・居所があればみんな住民

 「住民」という言葉はいうまでもなく「その土地に住む人」のことですが、実際には図書館や公民館など、公的サービスの多くは「市内在住・在勤・在学の人」にも適用され、広い意味での「住民」とみなされるのが通例です。しかし、この「住民」の定義は法律的にみると少しややこしくなります。
 憲法では第8章地方自治の項で「地方公共団体の住民」の選挙権と、特定の地方に適用される特別法について「住民投票」が規定されていますが、「住民」の定義はありません。
 「地方自治の本旨(憲法)」に基づく地方自治法が「市町村の区域内に住所を有する者」を「当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民(第10条)」と定義しています。
 「住所」については民法の「各人の生活の本拠をその者の住所とする(第22条)」及び「住所が知れない場合には、居所を住所とみなす(第23条)」規定が準用され、「日本に住所を有しない者は、その者が日本人又は外国人のいずれであるかを問わず、日本における居所をその者の住所」とみなされます。国民と外国人の区別はありません。なお、法人の場合、「住所はその主たる事務所の所在地(第50条)」とされます。
 地方税法には「納税者」や「納税地」の定めがあり、「国内に住所を有する場合、その住所地」、「国内に住所を有せず、居所を有する場合、その居所地」が「納税地」とされ、国籍を問わず、個人も法人も納税者・住民と扱われます。
 ところが、地方自治法は選挙権・直接請求権の行使を「日本国民たる普通地方公共団体の住民(第11条〜第13条)」に限っています。「住民」の定義にもかない、「納税の義務」も負っている外国人に地方参政権を認めないことに、重大な疑義が生じて当然です。最高裁も1995年、「地方自治の担い手は住民であり、外国人に地方参政権を認めないという法的根拠はない」として「法律をもって選挙権を付与する措置を講じること」の妥当性を認めました。日本共産党はこの問題を「民主主義の成熟と発展にもつながる重要な問題」と位置づけ、永住外国人に投票権だけではなく、被選挙権、住民投票権を認めるよう法案要綱を提案し続けています。
 国民・外国人の違いは?

 6日ビッグニュースが飛び込んできました。最高裁が日本人の父と外国人の母との間に生まれた子の国籍取得を制限するのは違憲との判決をくだし、原告である10人の子どもたちが晴れて国籍を取得できることになったというニュースです。
 憲法第10条は「日本国民たる要件は法律でこれを定める」としており、その「要件を定める法律」が「国籍法」です。国籍法は①両親が日本人である場合、②両親のいずれかが外国人である場合の子の国籍取得、③帰化による国籍取得を定めています。注目されるのは「日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」にも、①の場合と同様に「出生による国籍の取得」が認められていることです。この法律では日本国籍を有する者が「国民」であり、「国民でない者」は外国人とされます。
 広辞苑によれば国民は「①国中の民、②国家の統治の下にある人民。国家を構成する人間。国籍を有する者。国家に服する地位では国民、国政にあずかる地位では公民または市民と呼ばれる」とあり、外国人は「①他の国家の人民、②日本の国籍を有しない人」とあります。
 では、国民と外国人に憲法のうえではどんな違いがあるのでしょうか。第三章「国民の権利及び義務」、第10条から40条にてらして考えてみましょう。広く「基本的人権」をうたった章として知られている条項です。
 各条項をていねいに読んでみると、「国民」に限定して記述されている条項、「何人も…」と国民に限定されていない条項、「国民」とも「何人」とも記されていない条項があることがわかります。たとえば、第11条「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」、第16条「何人も、… 平穏に請願する権利を有し…」、第19条「思想及び良心の自由は、これを侵しては成らない」などのくだりです。憲法はこの章で、明らかに国籍を有する国民に特定された義務と権利、国籍の有無に関わらず「人」に認められた権利、日本という国家が率先して守るべき義務を明示していると言えるでしょう。憲法のこのくみたてをしっかり押さえることが大事です。
 権利駆使する羽曳野の闘い

 昨年の12月も押し詰まった27日、大阪地裁で異常に安価な土地の賃貸と不法な占有をめぐる、いわゆる「ハンナン裁判」の判決がくだりました。要旨は羽曳野市・北川嗣雄市長に「ハンナン」元会長・浅田満氏の関連会社と福谷剛蔵前市長らに計五三〇〇万円の賃料相当と土地の一部明け渡しを請求するよう命じるものでした。
 この判決は二重の意味で画期的なものです。その一つは福谷・北川市政のもとで続いてきた悪名高い「同和利権」に明確な決着をつけたことです。もう一つは多数の住民による監査請求、住民訴訟と引き継がれてきた世論と運動のもとでの勝利判決だという点です。北川市長はこの判決に従わず控訴していますが、全く道理のない態度だと厳しく批判されるべきだと言うほかありません。
 その「監査請求」や「住民訴訟」について、いくつかの点を確認しておきましょう。
 いわゆる監査請求には、一般に「事務監査請求」と呼ばれる地方自治法第五章・直接請求の規定による「監査請求(法第75条)」と、第九章・財務・第十節の規定による「住民監査請求(法第242条)」とがあります。「監査請求」は直接請求によるものですから有権者の五十分の一の署名がなければなりません。しかし、「住民監査請求」は一人でもできます。
 ただし、「事務監査」の請求は行財政全般でも、個別課題でも監査請求の範囲を問いませんが、「住民監査請求」は範囲が限られています。その範囲は、違法・不当な公金の支出、財産の取得、管理・処分、契約の締結・履行・債務その他の義務づけられた負担のある時や、違法・不当な公金の賦課・徴収・財産の管理を怠る事実(「怠る事実」という)がある時とされています。難しそうな言葉が並びますが、要するに支出や収入、財産管理に違法・不当な行いがある時のことです。このような場合に、住民はその行為の防止・是正・改善、もしくは損害の補填のための「必要な措置」を求めることができるのです。
 もう一点注目しておきたいのは「事務監査請求」の場合、監査の結果が出ればそれで一件落着となるのですが、「住民監査請求」の場合はその監査の結果に不服・不満がある場合は「住民訴訟」をおこすことができるという点です。つまり、あらかじめ「住民訴訟」への展開が予測される場合は、「住民監査請求」をしておかねばならないのです。